産後パパ育休(出生時育児休業)制度が導入され、男性の育児参加が促進される中、企業の人事担当者には、従業員の育休取得をサポートする体制づくりが求められています。従業員が安心して育休を取得し、子育てに専念できる環境を整えるには、産後パパ育休(出生時育児休業)給付金の申請手続きをスムーズに進めることが不可欠です。しかし、給付金申請手続きは少し複雑に感じられるかもしれません。
本記事では、人事担当者が知っておくべき申請手続きや注意点について解説します。
産後パパ育休(出生時育児休業)の概要について
産後パパ育休(出生時育児休業)の給付金の申請手続きの説明の前に、まずは制度の概要やメリットについて解説します。
制度の概要
産後パパ育休は正式には「出生時育児休業」といい、2022年に新たに創設された制度です。男性社員が、子どもの出生直後に育児に専念できるように設けられた特別な育休制度です。
従来の育児休業とは異なり、産後8週間以内に最大4週間まで取得でき、2回まで分割取得も可能です。さらに、労使協定を締結すれば、合意の範囲で休業中の就業も認められるため、より多くの男性従業員が柔軟に育児休業を取得できる制度になっています。
また、産後パパ育休の期間中は、社会保険料が免除され、出生時育児休業給付金を受け取ることができるため、金銭面においても安心して休暇を取得できます。
制度導入の背景
産後パパ育休制度は、少子高齢化や共働き世帯の増加に伴い、父親の育児参加を促進する社会的なニーズから導入されました。特に、子どもの出生直後の時期に父親が育児に専念することで、母親の負担軽減と家族の絆を深めることが期待されています。さらにこの制度は、育児と仕事の両立を支援し、少子化対策にもつながると考えられています。
企業のメリット
企業にとって、産後パパ育休制度を推進することは、従業員の定着率向上や企業イメージ向上に寄与します。従業員が家庭と仕事を両立しやすくなることで、モチベーションやロイヤルティが向上し、会社全体のパフォーマンス向上にもつながります。さらに、ダイバーシティ&インクルージョンに取り組む姿勢を示すことで、家族に優しい職場としての企業イメージが高まり、優秀な人材の確保や長期的な従業員定着率の向上にもつながるでしょう。
産後パパ育休(出生時育児休業)給付金 申請手続き
産後パパ育休(出生時育児休業)給付金の申請は、従業員が産後パパ育休を取得する際、事業主が行う必要があります。ここでは、申請手続きにおける必要書類や注意点などについて解説します。
産後パパ育休(出生時育児休業)給付金 申請時の注意点
①支給申請と受給資格確認は同時に行う必要がある
- 産後パパ育休(出生時育児休業)給付金の支給申請は、受給資格確認と同時に行います。
- 受給資格が認められた場合、「出生時育児休業給付金支給決定通知書」が交付されます。通知書には支給額が記載されるか、不支給の場合は不支給理由が記載されます。
- 受給資格が認められなかった場合、「育児休業給付受給資格否認通知書」が交付されます。
②提出書類にはマイナンバーや金融機関情報を正確に記載する
- 提出書類2.「育児休業給付受給資格確認票・出生時育児休業給付金支給申請書」には、マイナンバーを記載する必要があります。
- 本書類には、「払渡希望金融機関指定届」が付いています。氏名、金融機関名、支店名、口座番号を正確に記載し、誤りのないようにしましょう。
- 支給が決定した場合、指定口座に支給決定後約1週間で振り込みが行われます。
添付書類の事前準備
産後パパ育休(出生時育児休業)給付金の申請には、従業員本人および事業所がそれぞれ準備する書類が必要です。ここでは、必要な書類と準備のポイントを解説します。
従業員本人が準備する書類
従業員から事業所に提出してもらう必要がある書類は以下のとおりです。連絡方法や提出手段については、事前に従業員と取り決めておきましょう。
- 「育児休業給付受給資格確認票・出生時育児休業給付金支給申請書」の“申請者氏名”欄へ記名が必要です。ただし、被保険者から申請等に係る同意書がある場合、被保険者の記名を省略可能です。その場合は、申請者氏名欄には『申請について同意済み』と記載してください。
- 出産日が確認できる書類が必要です。母子健康手帳の出生届出済証明(自治体の押印があるページ)のコピー、または続柄が記載された世帯全体の住民票(写し)を用意してもらってください。
- 本人名義の通帳またはキャッシュカードのコピーが必要です。口座名義と口座番号が確認できるものを用意してもらうよう、依頼してください。名義が旧姓のものは使用できませんので、事前に案内と確認をしてください。
事業所が準備する書類
事業所側で用意すべき書類は以下の通りです。内容が正確であることを事前に確認してください。
- 休業を開始した日、休業開始時の賃金額および支払状況を証明できる書類を準備してください。賃金台帳または給与明細、出勤簿またはタイムカードのコピーなどが必要です。
- 休業期間中に勤務した場合や、休業期間を対象に賃金が支給された場合、支給対象期間を含む月の賃金台帳と出勤簿が必要です。
- 出生時育児休業申出書のコピーが必要です。産後パパ育休の開始日と終了日が記載されている書類で、育児休業ではなく出生時育児休業として申出されたことが分かるものを用意してください。
注意点
- 従業員との連絡手段や書類の送付方法を事前に取り決め、スムーズにやりとりできる環境を整えておきましょう。
- 書類不備や遅延が発生すると申請が受理されない可能性があります。提出前には必ず書類内容を確認してください。
参考:厚生労働省HP ハローワーク神戸 雇用保険適用課資料
参考:厚生労働省HP 「出生時育児休業給付金」リーフレット
産後パパ育休(出生時育児休業)給付金の支給要件と支給額
雇用保険の被保険者の方である従業員が産後パパ育休をした際に、一定の要件を満たすことで、産後パパ育休(出生時育児休業)給付金を受け取ることができます。ここでは、産後パパ育休(出生時育児休業)給付金の支給対象者や支給要件について解説します。
支給対象者
産後パパ育休(出生時育児休業)給付金の支給対象者は、子どもの出生日から8週間を経過する日の翌日までの期間内に、育児を目的として4週間(28日)以内の産後パパ育休を取得した雇用保険の被保険者です。
なお、有期雇用労働者が対象となるためには、以下の条件を満たしている必要があります。
- 出生日または出産予定日のいずれか遅い日から、8週間を経過する日の翌日から6ヶ月を経過する日までに、労働契約(更新される場合には、更新後の契約)の期間が満了することが明確に定まっていないこと
また産後パパ育休(出生時育児休業)給付金は、原則男性を対象とした給付金です。女性が出生時育児休業給付金を受給できるケースは、養子の場合に限られます。
支給要件
- 過去2年間の就業実績:休業開始日以前の2年間において、賃金支払基礎日数が11日以上、または就業した時間数が80時間以上の完全月が12ヶ月以上あること。
- 休業期間中の就業制限:休業期間中の就業日数が最大10日以下であること(10日を超える場合は、就業した時間数が80時間以下であること)。
※休業期間中の就業制限:休業期間中の就業日数が最大10日以下であること(10日を超える場合は、就業した時間数が80時間以下であること)。
- 計算方法:休業日数の合計が28日未満の場合…10日×休業日数÷28日(1日未満の端数は切り上げ)
休業期間中の就業に関する詳細な取扱いについては、厚生労働省のHPに掲載されているリーフレットで確認することをお勧めします。
参考;厚生労働省HP 「出生時育児休業給付金」リーフレット
支給額
産後パパ育休(出生時育児休業)給付金の支給額は、以下の式で計算されます。
支給額=休業開始時賃金日額×休業期間の日数(28日が上限)× 67%
「休業開始時賃金日額」は、原則として産後パパ育休開始前6ヶ月間の賃金を180で割った金額です。
また、産後パパ育休期間中の就労に対して、会社が賃金を支払った場合、その金額に応じて支給額が調整されます。具体的な調整方法についても厚生労働省のリーフレットに計算式が掲載されているので、必要に応じてご参照ください。
参考;厚生労働省HP 「出生時育児休業給付金」リーフレット
まとめ
産後パパ育休(出生時育児休業)給付金は、従業員が育児に専念しやすい環境を整えるための重要な制度です。今回は、概要や申請手続き、支給要件・支給額について詳しく解説しました。
しかし、給付金の申請には、正確な書類の準備や細かい手続きが求められます。不備や遅れがあると、申請が受理されないリスクもあります。また、法改正や最新の運用ルールを常に把握しておくことも必要です。
こうした煩雑な手続きや専門的な知識を必要とする場面では、社労士のサポートを活用することが非常に効果的です。
社労士は、給付金申請に必要な書類の確認や手続き代行はもちろん、労務管理全般において企業をサポートするプロフェッショナルです。適切なサポートを受けることで、企業の人事担当者の負担を軽減し、従業員が安心して育休を取得できる環境を整えることができます。
産後パパ育休の給付金申請に関する不明点や不安がある場合は、ぜひ社労士に相談してみてください。社労士とともにスムーズな手続きを進め、従業員の働きやすい環境づくりを目指しましょう。