特区民泊とは?民泊(住宅宿泊事業)との違いをわかりやすく解説

特区民泊とは?民泊(住宅宿泊事業)との違いをわかりやすく解説

これから民泊を始めたいと考えている方の中には「特区民泊」という言葉を聞いたことがある方もいるのではないでしょうか。実は、民泊にはいくつか種類があります。一般的に『民泊』と呼ばれる「住宅宿泊事業法(民泊新法)」に基づく住宅宿泊事業と、『特区民泊』と呼ばれる特定の地域で特別に認められた民泊等です。

特区民泊は、観光を盛り上げるために作られた制度で、ルールが一般的な民泊と少し違います。この記事では、特区民泊と民泊の違いやメリットをわかりやすく解説します。

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目次

特区民泊とは

特区民泊は国家戦略特区で宿泊施設を提供

特区民泊とは『国家戦略特区』と言われる地域内で主にインバウンド(訪日外国人観光客)向けに宿泊施設を提供する宿泊業態の1つです。正式名称は「国家戦略特別区域外国人滞在施設経営事業」であり、「国家戦略特別区域法」という法律に規定されています。特区民泊は日本の観光産業を盛り上げることを目的に、特に外国人観光客に配慮した宿泊サービスを提供するために作られました。外国人観光客に配慮した宿泊施設という位置づけではありますが、日本人でも利用することができます。

通常、宿泊施設を運営するためには「旅館業法」という法律に従い営業許可を受ける必要がありますが、この特区民泊は旅館業法の特例として、法律の一部を適用せず要件が緩和されています。しかし、国が定めた国家戦略特区内のみでしか営業が認められていません。

特区民泊が行える地域「国家戦略特区」とは

国家戦略特区とは日本の経済や地域の活性化を目的に他の地域よりも自由なルールや仕組みを使えるようにしたエリアのことです。実際に国家戦略特区に指定されている区域は東京都、神奈川県、千葉県千葉市・成田市、愛知県、新潟県新潟市、大阪府、京都府、兵庫県、広島県、福岡県福岡市・北九州市、沖縄県等があります。しかしこの全てで特区民泊が行えるわけではなく、この指定区域の中でも特区民泊条例を制定している自治体でのみ特区民泊が可能です。

特区民泊条例を制定している主な自治体は東京都大田区、千葉県千葉市、新潟県新潟市、大阪府、大阪市、福岡県北九州市等です。特に大阪府では2025年の大阪万博に向け、インバウンドの呼び込みや宿泊施設確保の観点から特区民泊に力を入れています。

特区民泊と民泊(住宅宿泊事業)の違い

特区民泊と民泊(住宅宿泊事業)の比較表

一般的な民泊(住宅宿泊事業)と特区民泊は何が違うのでしょうか。主な違いを表にまとめました。運営可能な地域、営業上限日数と最低宿泊日数、住宅宿泊管理事業者への委託要否、インバウンドに対するサービスの4つの違いを解説します。

業態 (根拠法)特区民泊 (国家戦略特別区域法)民泊 (住宅宿泊事業法)
概要特区内でインバウンド向けに中長期で宿泊施設を提供する。観光客や旅行者に向けて住宅の一部を一時的に提供する。
運営可能な地域国家戦略特別区に指定された区域でかつ特区民泊条例を制定している自治体で運営可能。工業地域以外であれば全国で運営可能。※自治体によって異なる場合あり
営業日数の上限制限なし年間180日以内(宿泊日数)
最低宿泊日数2泊3日制限なし
住宅宿泊管理事業者への委託不要必要 ※家主不在型又は多数部屋がある場合
近隣住民への説明必要必要
対応言語等の インバウンドに対するサービス日本語以外の1か国以上の外国語規定なし
必要な手続き国家戦略特別区域 外国人滞在施設経営事業認定住宅宿泊事業届出

特区民泊の運営可能な地域

一般的な民泊は行政が定める土地の使用用途(用途地域)が「工業地域」や「工業専用地域」以外の地域であれば全国で行うことができます。一方で特区民泊の場合は国家戦略特区に指定された区域でかつ特区民泊条例が制定されている自治体内でのみ行うことができます。さらに自治体が定める用途地域や地区計画の規制もあるため、特区民泊は限られた地区でのみ営業が可能なのです。

※地区計画:地区の住民の合意を得て行う地区開発の計画

例えば、東京都大田区は特区民泊条例があるため民泊も特区民泊も行うことができます。しかし、隣接する東京都品川区の場合は特区民泊条例がないため、民泊のみ行うことができます。

営業上限日数と最低宿泊日数

民泊(住宅宿泊事業)は年間で180日以内という営業日の上限が住宅宿泊事業法により定められています。180日というのは宿泊日数なので、180泊の営業が可能ということです。一方で特区民泊では営業日の上限が設けられていません。そのため年間を通して営業が可能です。特区民泊について規定している国家戦略特別区域法は、経済や地域の活性化を目的に定められた法律であるため、このような営業日数の制限を設けていないのです。

しかし、目的が経済や地域の活性化のためであっても地域住民や既存の施設への配慮を忘れてはなりません。そこで特区民泊では最低宿泊日数「2泊3日以上」というルールを設けています。地域住民にとって、短期間の宿泊が繰り返されると、宿泊施設への旅行者の出入りが頻繁になり、生活環境が落ち着かなくなるという懸念があります。そのため、「2泊3日以上」というルールを設けることで、宿泊者の入れ替わりを抑え、地域住民との摩擦を減らすこととしています。また、特区民泊が許可されているエリアでは、ホテルや旅館も営業しています。1泊の短期滞在を特区民泊で認めてしまうと、既存の宿泊施設との競争が激化する可能性があります。そこで特区民泊には最低宿泊日数を設けて区別し、宿泊市場のバランスを取るという狙いもあるのです。

特区民泊の最低宿泊日数は以前まで6泊7日以上というルールがありました。しかし、2016年に宿泊施設の不足解消の観点からこの要件を緩和し、2泊3日以上に引き下げられたという経緯があります。自治体によっては現在も概ね6日以内の短期間での提供を行う施設の場合には中長期間の提供を行う施設よりも認可の審査基準が厳しく設定されている場合があります。詳細は各自治体に確認しましょう。

住宅宿泊管理事業者への委託要否

一般的な民泊は施設に家主が居住しない形態で営業を行う場合は、住宅宿泊管理事業者に管理を委託することが義務付けられています。住宅宿泊管理事業者とは、国土交通大臣の登録を受けた事業者で、民泊物件の管理・運営を行います。

一方で特区民泊の場合は住宅宿泊管理事業者への委託は求められていません。しかし、民泊同様に周辺住民からのクレームや問い合わせに適宜対応できる体制を整えておくことが必要です。家主がすべての対応を行うことが難しい場合や他社に依頼したいときは、住宅宿泊管理事業者の運用代行や旅館組合を通じた近隣ホテルへの業務委託等を検討しましょう。

特区民泊はインバウンドに対するサービスを重視

一般的な民泊では日本語以外の言語を用いた案内や対応は必須とされていませんが、特区民泊では日本語以外の1か国語以上の言語での案内や対応が求められます。例えば、東京都大田区で特区民泊を行う場合、「外国語を用いた案内があること」「緊急時に外国語による避難や救急医療等に関する情報が迅速に提供される体制が確保されていること」等が要件の1つです。

特区民泊は外国人滞在施設経営事業という名称通り、外国人観光客を主な対象とした宿泊施設です。そのため、外国人観光客に対するサービスが特に重視されており、外国語に対応できるスタッフの配置やガイドブック・施設案内等の資料を多言語で用意することが推奨されています。

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特区民泊のメリット

特区民泊は営業日数の制限がなく収益性がある

民泊(住宅宿泊事業)は年間で180日までという営業日数の制限があります。一方で特区民泊の場合、営業日数の制限がなく年間を通して営業が可能です。営業制限がないため、収益性を担保できるという点がメリットの1つでしょう。また、特区民泊は国家戦略特区に指定された地域で行われるため、観光客が多い場所や利便性の高い立地で運営することが前提です。観光需要が高いエリアでの展開は、集客面で大きなメリットとなります。

要件が緩和されている

民泊(住宅宿泊事業)は180日の営業制限があるため、181日以上営業したい場合は簡易宿所営業許可を取得する必要があります。簡易宿所営業はホテルや旅館等の1種として営業する宿泊施設であるため、特にフロント設備や消防設備に関する要件が厳しく設定されています。一方で特区民泊の場合、住宅を貸し出す前提であるため消防設備に関する要件が緩和されています。フロントの設置も義務付けられていません。認定の手続きにかかる所要期間は1~2カ月と簡易宿所営業許可よりも短い場合が多くあります。

特区民泊を始めるためには?

特区民泊には自治体からの認定が必要

民泊は物件の所在地を管轄する都道府県等に届出を提出することで営業可能でしたが、特区民泊の場合は特区民泊条例を制定している自治体から認定を得る必要があります。一般的な民泊と異なる特区民泊の主な認定要件は4つです。

  • 宿泊施設の所在地が国家戦略特別区域内であること
  • 宿泊施設の宿泊期間が2泊3日以上でかつ管轄の自治体が定めた期間以上であること
  • 居室の床面積が25㎡以上で、施錠可能であること
  • 施設使用方法に関する外国語案内、緊急時の外国語による情報提供、外国人旅客の滞在に必要な役務が提供できる体制が整っていること

②の宿泊期間は自治体により最低宿泊日数を法定の2泊3日より多く設定することができます。これは自治体により異なるルールであるため管轄の自治体への確認が必要です。

また、①~④以外にも民泊でも求められるような水回りの設備の要件や消防設備の要件、宿泊者名簿の設置等を満たした上で認定申請を行う必要があります。

まずは事前相談

特区民泊を始めるためには、特区民泊の開業が可能か、認定取得に必要な要件、各自治体毎のルール等確認しておく必要があります。そのため、特区民泊の認定申請をしたい場合はまず保健所や消防署、役所に事前相談を行いましょう。

東京都大田区の場合は、保健所や消防署の事前相談では物件の平面図、物件の場所が特定できる地図や案内図を持参することが推奨されています。図面や地図から特区民泊が可能か、特区民泊を開業するために必要な設備をそれぞれ提案してもらえますので、それに従って改装工事や設備を揃えていきしょう。

特区民泊申請前に近隣住民への説明が必要

民泊同様に特区民泊でも営業を申請前に周辺住民へ周知を行う必要があります。周知の方法や範囲は自治体によって異なるため、自治体や保健所に方法を確認しましょう。

例えば、東京都大田区の場合は認定申請をする2週間前までに説明会の開催又は戸別訪問等の方法により近隣住民に説明を行うことが求められます。また、施設の設置予定地に説明用書面を掲示する必要があり、この書面は掲示前に大田区生活衛生課に内容の確認をしてもらう必要があります。

特区民泊の認定申請をする

事前相談と設備の整備、近隣住民への説明を終えたら、必要書類を揃えて保健所に申請書類を提出します。不足・不備があれば補正や追加書類の提出を求められる場合がありますので、できるだけ申請前に書類を保健所で確認してもらい、不備がない状態になってから申請を行うようにしましょう。

申請書を提出した後、書類に不備や不足がなければ保健所が施設の立会検査を行います。実際に施設の中に入り、必要な施設が整っているかを確認します。

書類審査、立会検査が終了し認定されると、特区民泊の認定を受けた施設である旨を示した標識が発行されます。物件の見やすい場所に掲示し、営業を開始しましょう。

まとめ

民泊と特区民泊の違いは営業できる区域、営業日数の上限、手続き方法等があります。それぞれの違いを確認して、より自身に合った業態を選択しましょう。

特に特区民泊は外国人観光客をターゲットとした制度です。外国人向けの事業を展開したいという方は特区民泊を検討しても良いのではないでしょうか。

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