企業にとって、就業規則は社内の規律や従業員の適切な労働関係を築くために欠かせない重要な規定です。しかし、どれほど内容が充実した就業規則であっても、それが従業員に適切に周知されていなければ、その効力が認められなかったり、場合によっては罰則を受ける可能性もあります。
そこでこの記事では、労働基準法に基づく就業規則の正しい周知方法や、変更時の対応、さらには周知義務に違反した場合のリスクについて詳しく解説します。
労働基準法による正しい周知方法
労働基準法第106条では、就業規則を作成した場合、「常時各作業場の見やすい場所へ掲示し、又は備え付けること、書面を交付すること、その他の厚生労働省令で定める方法によつて、労働者に周知させなければならない。」と定められています。
そして、「その他の厚生労働省令で定める方法」というのは、労働基準法施行規則52条の2に規定があり、次の1~3の方法によることとされています。
- 常時各作業場の見やすい場所へ掲示し、又は備え付けること。
- 書面を労働者に交付すること。
- 使用者の使用に係る電子計算機に備えられたファイル又は第二十四条の二の四第三項第三号に規定する電磁的記録媒体をもつて調製するファイルに記録し、かつ、各作業場に労働者が当該記録の内容を常時確認できる機器を設置すること。
1の作業場というのは、ざっくりいうと実際の作業が行われる場所のことをいい、工場内の各エリアだったり、実際の業務が行われる特定の建物のことをいいます。2の書面というのは、コピーも含まれます。3については、電子メールや社内イントラネットなど、情報通信機器内に就業規則のファイルを置いて、従業員が確認可能な状態に置いていることを指しています。
これらの方法に共通する要件としては、従業員が容易に内容を確認できる状態にあることです。特に3の電子化された手段を用いる場合は、全ての従業員がアクセス可能であるか、閲覧方法が十分に説明されていることが必要です。就業規則の電子ファイルが置かれているのに、労働者に閲覧権限が与えられていないような場合は、就業規則が周知されているとはいえないので注意が必要です。
就業規則を変更した場合も周知が必要
就業規則は一度作ったら終わりというものではなく、企業の状況や社会情勢の変化、法改正等に合わせて、柔軟に改定することが重要です。そして、就業規則を変更した場合も、その内容を全ての従業員に再度周知しなければならない点に注意しましょう。
例えば、労働時間の変更や給与体系の見直しなど、従業員の権利や義務に関わる内容を修正した場合、ただ新しい規則を作成するだけでは不十分です。変更後の規則を周知し、従業員がその内容を正確に理解できるようにすることが求められます。
変更後の周知を怠った場合、就業規則の効力が否定されてしまったり、労基法106条により30万円以下の罰金に科せられる可能性があるので注意しましょう。
周知の際には、旧規則から新規則への変更点を明確にし、従業員がその影響を把握できるように工夫することがポイントです。特に、中小企業では従業員との直接的なコミュニケーションが取りやすい環境にあるため、ミーティングや説明会を活用することで、周知の効果を高めることも効果的です。
周知義務に違反した場合の罰則
就業規則の周知義務を怠ると、どのようなリスクがあるのでしょうか?
就業規則を新しく作成したり、変更した場合には、それを労働者に周知しなければなりません。そして、周知を怠った場合、労基署から行政指導や是正勧告を受けるおそれがあり、それを無視したり、違反行為が悪質と判断された場合には、労基法120条により30万円以下の罰金が科せられる可能性があります。
また、適切に周知されていない就業規則は、その効力が否定される可能性があります。その結果、労働条件や就業規則に基づく規定が従業員に適用されず、予期せぬトラブルに直面する可能性があります。例えば、懲戒処分や給与控除の規定が周知されていない場合、従業員にその効力を主張することが難しくなるケースがあります。
最悪の場合、労働トラブルが法的紛争に発展した際、企業側の対応が不利になる可能性もあるため、周知義務を軽視することは絶対に避けるべきです。
まとめ
就業規則は、企業と従業員の間で適正な労働環境を維持するための重要な基盤です。しかし、その効果を発揮するためには、労働基準法に基づき適切に周知されていることが前提となります。
周知の際には、掲示、書面交付、電子化などの方法を用い、全ての従業員が容易にアクセスできるよう配慮しましょう。また、就業規則を変更した際も、改定内容を迅速かつ正確に周知することが求められます。
中小企業にとっては、労働トラブルの予防や従業員の信頼獲得に直結する取り組みです。ぜひ、就業規則の周知を経営課題の一つとしてしっかりと対応していただきたいと思います。