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就業規則の記載事項と作り方をわかりやすく解説
就業規則は従業員と会社の関係を定める重要な規則であり、適切に作成することが法令遵守と円滑な労務管理につながります。今回は、企業運営に欠かせない「就業規則」について、その記載事項と作り方、作成時の注意点をご紹介します。
就業規則とは
就業規則とは、労働条件や職場の規律などについて、会社が従業員に対して一方的に定める規則のことです。具体的には、賃金、労働時間、休日・休暇、退職・解雇などの労働条件に加え、服務規律、安全衛生、表彰・懲戒などの職場のルールを定めています。
就業規則の主な目的は、労働条件の明確化、公平性の確保、効率的な労務管理です。労働基準法では、常時10人以上の労働者を使用する事業場では、就業規則を作成し、所轄の労働基準監督署に届け出ることが義務付けられています。ただし、10人未満の事業場でも、労働条件を明確にし、トラブルを防ぐために就業規則を作成することが推奨されています。
就業規則は、労働契約法第7条により強行的効力を持ち、個別の労働契約よりも優先されることがあります。そのため、その重要性は非常に高いと言えます。また、就業規則は単に作成するだけでなく、従業員に周知する義務があります。適切に周知することで、従業員の理解を深め、円滑な職場運営につながります。
就業規則の記載事項
就業規則を作る際には、法律で定められた記載事項を網羅する必要があります。記載事項は「絶対的記載事項」と「相対的記載事項」に分類されます。
絶対的記載事項
絶対的記載事項とは、必ず就業規則に記載しなければならない事項です。労働基準法第89条に規定されており、以下の項目が含まれます。
- 始業・終業の時刻、休憩時間、休日、休暇に関する事項
- 労働時間の管理方法(タイムカード、ICカードなど)
- 所定労働時間、休憩時間の長さと取得のタイミング
- 法定休日(週1日または4週4日)と会社独自の休日
- 年次有給休暇の付与日数、取得方法、計画的付与制度の有無
- 賃金の決定、計算・支払の方法、締切・支払の時期に関する事項
- 基本給、諸手当の種類と計算方法
- 賃金の支払方法(現金払いか口座振込か)
- 賃金締切日と支払日
- 時間外労働、休日労働、深夜労働の割増賃金率
- 昇給に関する事項
- 昇給の時期(定期昇給の有無)
- 昇給の方法(査定基準、昇給額の決定方法)
- 退職に関する事項(解雇の事由を含む)
- 退職の種類(自己都合退職、会社都合退職、定年退職)
- 退職手続きの方法と退職日の決定
- 解雇事由の具体的内容(就業規則違反、業務命令拒否、能力不足など)
- 解雇予告や解雇予告手当に関する規定
これらの記載事項は、従業員の労働条件の基本を成すものであり、就業規則を作る際には特に注意を払う必要があります。各項目について具体的かつ明確に記載し、法令に準拠していることを確認することが重要です。また、これらの事項は会社の規模や業種によって詳細が異なる場合があるため、自社の実情に合わせた内容にすることが求められます。
相対的記載事項
相対的記載事項とは、定めをする場合には就業規則に記載しなければならない事項です。これらの事項は、会社の方針や事業の特性に応じて必要となる場合に記載します。主な相対的記載事項には以下のようなものがあります。
- 退職手当に関する事項
- 退職金の支給対象者、算定方法、支給時期
- 退職金規程がある場合はその概要
- 臨時の賃金(賞与等)・最低賃金額に関する事項
- 賞与の支給条件、計算方法、支給時期
- 最低賃金の保障に関する規定
- 食費・作業用品などの負担に関する事項
- 従業員の食費補助や負担割合
- 制服、作業工具等の貸与・支給・返還に関する規定
- 安全衛生に関する事項
- 健康診断の実施時期と受診義務
- 労働災害防止のための措置や従業員の遵守事項
- 職業訓練に関する事項
- 社内研修や外部研修の実施方針
- 研修参加の義務化や費用負担に関する規定
- 災害補償・業務外の傷病扶助に関する事項
- 労災保険の適用範囲や上乗せ補償の有無
- 私傷病時の休業補償や見舞金制度
- 表彰・制裁に関する事項
- 表彰の種類、条件、選考方法
- 懲戒の種類(譴責、減給、出勤停止、降格、諭旨解雇、懲戒解雇など)と適用基準
- その他、当該事業場の労働者全員に適用される事項
- 休職制度(休職事由、期間、待遇など)
- 副業・兼業に関する規定
これらの記載事項は、会社の状況や方針に応じて定める必要があります。相対的記載事項を就業規則に含めることで、労使間の理解を深め、潜在的な紛争を予防することができます。ただし、これらの規定を設ける際は、労働関係法令に抵触しないよう注意が必要です。
任意的記載事項
任意的記載事項とは、法律上の義務ではありませんが、会社の実情や方針に応じて自由に定めることができる事項です。これらの事項を記載することで、より詳細な労働条件や職場のルールを明確にすることができます。主な任意的記載事項には以下のようなものがあります。
- 服務規律に関する事項
- 従業員の遵守事項(守秘義務、副業・兼業の制限など)
- 職場のマナーやエチケット
- 人事に関する事項
- 人事異動(配置転換、出向、転籍など)の基準や手続き
- 昇進・昇格の条件や評価基準
- 福利厚生に関する事項
- 社員旅行、レクリエーション活動
- 社員寮、託児所の利用規定
- 教育訓練に関する事項
- 社内研修プログラムの内容や参加条件
- 自己啓発支援制度(資格取得支援など)
- 情報セキュリティに関する事項
- 会社のIT機器、ネットワークの使用ルール
- 個人情報保護に関する規定
- ハラスメント防止に関する事項
- セクハラ、パワハラ、マタハラなどの定義と禁止事項
- ハラスメント相談窓口や対応手順
これらの任意的記載事項は、会社の文化や価値観を反映し、より良い職場環境を作るために重要な役割を果たします。ただし、これらの規定が労働者の権利を不当に制限したり、法令に抵触したりしないよう注意が必要です。
就業規則の作り方
就業規則を作成する際は、以下のステップに従って進めることをお勧めします。
- 現状の把握と方針の決定
まず、現在の労働条件や社内規則を洗い出し、会社の経営方針や将来的な展望を考慮しながら、就業規則に盛り込む内容の方針を決定します。この段階で、経営者や人事部門、現場の管理職などから広く意見を集めることが重要です。 - 記載事項の確認と内容の検討
絶対的記載事項、相対的記載事項、任意的記載事項を確認し、自社に必要な項目を洗い出します。各項目について、法令に準拠しているか、会社の実情に合っているか、従業員にとって公平で合理的な内容になっているかを慎重に検討します。 - 草案の作成
検討した内容をもとに、就業規則の草案を作成します。この際、他社の就業規則や厚生労働省のモデル就業規則を参考にすると良いでしょう。ただし、自社の特性を反映させることを忘れないようにしましょう。 - 社内での確認と調整
作成した草案を社内の関係部署で回覧し、意見や修正案を募ります。特に、現場の実態と乖離していないか、運用上の問題がないかを確認することが重要です。 - 従業員代表からの意見聴取
就業規則の作成・変更の際は、労働者の過半数代表者または労働組合の意見を聴く必要があります。単に形式的な手続きとして扱うのではなく、建設的な意見交換の機会として活用しましょう。 - 最終案の作成と届出
従業員代表からの意見を考慮し、必要に応じて修正を加えて最終案を作成します。完成した就業規則は、所轄の労働基準監督署に届け出る必要があります。 - 従業員への周知
作成した就業規則は、全従業員に周知する必要があります。社内掲示板への掲示、社内イントラネットでの公開、従業員への配布などの方法があります。周知の際は、重要な変更点について説明会を開催するなど、従業員の理解を促進する工夫も大切です。 - 定期的な見直し
就業規則は一度作成して終わりではありません。法改正や社会情勢の変化、会社の成長に合わせて定期的に見直し、必要に応じて改定を行います。年に一度は見直しの機会を設けることをお勧めします。
就業規則の作成は、労務管理の基本となる重要な作業です。自社の状況をよく把握し、法令を遵守しながら、従業員にとっても会社にとっても有益な内容となるよう心がけましょう。また、作成にあたっては社会保険労務士や弁護士などの専門家のアドバイスを受けることも検討してください。専門家の助言を得ることで、法的リスクを軽減し、より実効性の高い就業規則を作成することができます。
就業規則を作るときの注意点
就業規則を作成する際には、以下の点に注意しましょう。
1. 法令遵守
就業規則の内容は、労働基準法をはじめとする労働関係法令に反してはいけません。例えば、法定の休日や有給休暇を下回る内容を定めることはできません。就業規則を作る際には、最新の法令を確認し、遵守することが重要です。
2. 従業員の意見聴取
就業規則の作成・変更時には、従業員の過半数代表者または労働組合の意見を聴く必要があります。この手続きを怠ると、就業規則の効力が認められない可能性があります。従業員の意見を尊重し、協調的な労使関係を築くことが大切です。
3. 明確かつ具体的な記載
就業規則の記載事項は、できるだけ明確かつ具体的に記述しましょう。曖昧な表現や解釈の余地がある記載は、後々トラブルの原因となる可能性があります。特に、懲戒や解雇に関する事項は、具体的な基準を示すことが重要です。
4. 合理性の確保
就業規則の内容は、社会通念上の合理性が求められます。不当に従業員の権利を制限したり、過度に厳しい規定を設けたりすることは避けるべきです。従業員の利益と会社の利益のバランスを考慮し、公平で合理的な内容にすることが大切です。
5. 定期的な見直し
労働法制の改正や社会情勢の変化に合わせて、就業規則を定期的に見直すことが重要です。特に、働き方改革関連法の施行により、時間外労働の上限規制や有給休暇の取得義務化など、大きな変更が行われています。最新の法改正に対応した就業規則の更新が必要です。
6. 周知義務の遵守
作成した就業規則は、従業員に周知する義務があります。具体的には、以下のいずれかの方法で周知しなければなりません:
- 常時各作業場の見やすい場所へ掲示する
- 書面を労働者に交付する
- 磁気ディスク等に記録し、各作業場に労働者が随時確認できる機器を設置する
7. 就業規則の不利益変更への対応
就業規則を従業員に不利益に変更する場合には、特に慎重な対応が必要です。変更の必要性、内容の相当性、労働組合等との交渉の状況、他の労働条件の改善状況などを総合的に考慮し、変更に合理性があるかどうかを判断する必要があります。
まとめ
就業規則を作る際には、法定の記載事項を網羅し、法令を遵守しながら、会社の実情に合わせた内容を定めることが重要です。また、従業員の意見を尊重し、合理的で公平な内容にすることで、労使双方にとって有益な就業規則を作ることができます。
就業規則の作成や見直しは、専門的な知識が必要な作業です。労働法に詳しい社会保険労務士や弁護士に相談しながら進めることをおすすめします。適切な就業規則を作ることで、従業員が安心して働ける環境を整え、会社の発展につなげていきましょう。