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高齢者の労災事故防止対策、企業の努力義務化へ
11月6日、第170回労働政策審議会安全衛生分科会の資料が厚生労働省のHPで公表されました。
同資料では、メンタルヘルス対策や一般健康診断の検査項目などとならんで、高齢者の労災事故防止対策の議論がとりまとめられています。本記事では、高齢労働者を取り巻く現状と、今後強化が予想される安全対策について解説します。
高齢労働者の増加と労働災害の実態
近年、人口動態の変化や高齢者の健康状態の向上を背景に、企業における高年齢労働者の割合が着実に増加しています。厚生労働省の最新データによると、雇用者全体に占める50歳以上の労働者の割合は41.4%、60歳以上の労働者の割合は18.7%に達しています。こうした状況の中、高年齢労働者の労働災害防止対策の強化が喫緊の課題となっています。
注目すべきは、高年齢労働者の労働災害発生率の高さです。労働災害による死傷者数(休業4日以上)に占める50歳以上の労働者の割合は55.7%、60歳以上の高齢者の割合は29.3%となっており、労働災害発生率の高齢者が占める割合は、平成15年以降上昇を続けています。
高齢者の労働災害における特徴的な課題
さらに深刻なのは、高年齢労働者の労働災害は重篤化しやすい点です。
データによると、年齢が上がるにしたがって休業見込み期間が長期化する傾向にあり、これは加齢による身体機能の低下や身体の頑健さの低下が原因と推定されています。特に、墜落・転落や転倒による災害が多く、これらの事故は高年齢層で発生率が著しく上昇することが明らかになっています。
労働安全衛生法改正の動き
このような状況を踏まえ、厚生労働省は現在、労働安全衛生法の改正を視野に入れた検討を進めています。
現行の労働安全衛生法第62条では、中高年齢者に対する「適正な配置」を事業者の努力義務として定めているのみですが、より包括的な安全対策の実施を促すため、措置内容の範囲を広げることが検討されています。
エイジフレンドリーガイドラインの法的位置づけ
具体的には、「高年齢労働者の安全と健康確保のためのガイドライン」(通称:エイジフレンドリーガイドライン)に基づく対応を企業の法的な努力義務として位置づけることが想定されています。
このガイドラインでは、経営トップによる方針表明と体制整備、リスクアセスメントの実施、職場環境の改善、健康・体力状況の把握、個別対応、安全衛生教育など、具体的な対策が示されています。
現状の課題と企業に求められる対応
現状では多くの企業でガイドラインに基づく取組が十分に進んでいないのが実情です。
特に、身体機能の低下等による労働災害発生リスクに関するリスクアセスメントの実施や、身体機能の低下を補う設備・装置の導入などが低調となっています。その背景には、「自社の60歳以上の高年齢労働者は健康である」という認識が広がっていることが挙げられます。
まとめ
企業としては、今後の法改正を見据え、高年齢労働者の安全確保に向けた取組を強化していく必要があります。特に重要なのは、加齢による身体機能の低下を個人差の大きい現象として捉え、画一的な対応ではなく、個々の労働者の状況に応じたきめ細かな対策を講じることです。
今後、高年齢労働者が安全に働き続けられる職場づくりは、人材確保の観点からも重要な経営課題となることが予想されます。