社会保険・労務相談・助成金・補助金など人事労務でお困りなら
「SATO社会保険労務士法人」にご相談ください
キャリアアップ助成金とは|申請方法と注意点
アルバイトやパート従業員について、正社員登用や賃上げをすることは、従業員の労働意欲の向上や離職率の低下だけでなく、企業のイメージアップや生産性の向上にもつながります。ただ、費用負担の面から躊躇してしまうケースも多いのではないでしょうか。
そんなとき、活用したいのが「キャリアアップ助成金」です。
キャリアアップ助成金は、非正規雇用の労働者のキャリアアップ促進のための制度で、実際に多くの企業で活用されています。本記事では、キャリアアップ助成金とはどんな助成金なのか、また、申請方法や利用上の注意点などについて解説します。
キャリアアップ助成金とは
キャリアアップ助成金は、非正規雇用労働者(有期雇用、短時間労働者、派遣労働者など)の正社員化や賃上げなど、処遇改善を目指す事業主を支援するための助成金です。
最近では、多様な働き方が認められるようになり、さまざまな理由から非正規雇用を選ぶ人々が増加しています。非正規雇用労働者のスキル向上や労働意欲の向上は、企業の成長にも欠かせません。
そこで、非正規雇用労働者の処遇改善に取り組む事業者を支援するため、キャリアアップ助成金が創設されました。
キャリアアップ助成金は大きく「正社員化支援」と「処遇改善支援」の2つに分けられます。、それぞれ「正社員化支援」は2コース、「処遇改善支援」は4コースから成り、合計6つのコースがあります。
キャリアアップ助成金の対象となる事業主とは
キャリアアップ助成金の対象となるのは、労働者を雇用している事業者です。労働者が数名規模の小規模事業者から、数万人を超える大企業まで広く活用することができます。
キャリアアップ助成金の対象となる事業者の要件
キャリアアップ助成金の支給対象となる事業者の各コース共通の要件は下記の通りです。
- 雇用保険の適用事業所の事業主であること
- 適用事業所ごとに、キャリアアップ管理者を配置した事業主であること
- 適用事業所ごとに、対象労働者のキャリアアップ計画書を作成し、管轄労働局長の認定を受けた事業主であること
- 該当するコースの措置に係る対象労働者に対する労働条件、勤務状況及び賃金の支払い状況等を明らかにする書類を整備し、賃金の算出方法を明らかにすることができる事業主であること
- キャリアアップ計画期間内に、非正規雇用労働者のキャリアアップに関する取り組みを実施している事業主であること
上記の要件に該当すれば、民間の事業者のほか、民法上の公益法人や特定非営利活動法人(いわゆるNPO法人)、医療法人、社会福祉法人等も含まれます。
キャリアアップ助成金における中小企業とは
キャリアアップ助成金の支給額は企業規模で異なります。資本金などのない事業所の場合、常時雇用する労働者の人数で判断されます。
キャリアアップ助成金において「中小企業(正確には中小企業事業主)」とは、下記のいずれかに該当する事業主のことをいいます。
- その資本金の額若しくは出資の総額が3億円(小売業又はサービス業を主たる事業とする事業主については5,000万円、卸売業を主たる事業とする事業主については1億円)以下であること
- 常時雇用する労働者の数が300人(小売業を主たる事業とする事業主については50人、卸売業又はサービス業を主たる事業とする事業主については100人)以下であること
業種 | 資本金の額 又は出資の総額 | 常時雇用する労働者の数 |
小売業(飲食店を含む) | 5,000万円以下 | 50人以下 |
サービス業 | 5,000万円以下 | 100人以下 |
卸売業 | 1億円以下 | 100人以下 |
その他の業種 | 3億円以下 | 300人以下 |
なお、「常時雇用する労働者」とは、2か月を超えて使用され、かつ、1週間の所定労働時間が、当該事業場の正社員とほぼ同じの労働者のことをいいます。
キャリアアップ助成金の各コース
キャリアアップ助成金は「正社員化支援」と「処遇改善支援」の大きく2つに分けられます。そして「正社員化支援」は2コース、「処遇改善支援」は4コースから成り、合計で6つのコースから選択することができます。
(正社員化支援)
- 正社員化コース
- 障害者正社員化コース
(処遇改善支援)
- 賃金規定等改定コース
- 賃金規定等共通化コース
- 賞与・退職金制度導入コース
- 社会保険適用時処遇改善コース(令和8年3月31日まで)
下記では、それぞれのコースについて詳しく解説をします。
正社員化コース
正社員化コースは、キャリアアップ助成金の中で最も利用されているコースです。非正規雇用の労働者を正社員に転換した場合に支給されます。
支給される助成額は、対象事業主が大企業か中小企業か、また、対象となる労働者が有期雇用か無期雇用か等によって異なります。
主な助成額は下記の通りです。
有期雇用から正社員化 | 無期雇用から正社員化 | |
中小企業 | 57万円 | 28万5,000円 |
大企業 | 42万7,500円 | 21万3,750円 |
上記の表の他、正社員化コースにはさまざまな加算措置があります。
例えば、 正社員に転換する労働者が母子家庭の母若しくは父子家庭の父である場合や、対象労働者が人材開発支援助成金に係る特定の訓練を修了した場合、派遣労働者を直雇用した場合など、一定額が加算されます。
障害者正社員化コース
障害者正社員化コースは、障害者雇用の促進と職場定着を目的として、障害のある非正規雇用労働者の処遇改善をした事業主が対象となります。
具体的には、一定の障害を有する労働者について、有期雇用から正規雇用への転換、有期雇用から無期雇用への転換、無期雇用から正規雇用への転換を実施した場合、事業主に支給されます。
助成額は、障害の程度や処遇改善の内容等によって異なります。
有期雇用から正社員化 | 有期雇用から無期雇用化 | 無期雇用から正社員化 | |
重度身体障害者、重度知的障害者、精神障害者 | 120万円(90万円) | 60万円(45万円) | |
上記以外の労働者 | 90万円(67.5万円) | 45万円(33万円) |
()は大企業の助成額です。
民間企業の障害者労働者の法定雇用率は、2.5%となっており、従業員を40人以上雇用している事業主は、障害者を1人以上雇用しなければなりません。
障害者雇用には職場環境の整備、作業施設の改善など一定の経済的負担が発生しますが、キャリアアップ助成金を上手に活用することで、その負担を軽減することが可能です。
賃金規定等改定コース
キャリアアップ助成金の賃金規程等改定コースは、非正規雇用労働者の賃金規定等を改定し、基本給3%以上増額した事業主に対して支給される助成金です。
企業の最低賃金の引き上げ対応などに活用できる制度です。
賃金引き上げ率 | 中小企業 | 大企業 |
3%以上5%未満 | 5万円 | 3万3,000円 |
5%以上 | 6万5,000円 | 4万3,000円 |
賃金規定等の改定が職務評価を経て行われた場合、中小企業で20万円、大企業で15万円が職務評価加算として加算されます。
職務評価とは、職務の大きさを相対的に比較して、その職務に従事する労働者の待遇が職務の大きさに応じたものとなっているかを把握する手法のことです。具体的には、要素別点数法、単純比較法、要素比較法などがあります。
最低賃金法の定める最低賃金に達するまでの増額については、助成金の対象外となるので注意しましょう。
賃金規定等共通化コース
キャリアアップ助成金「賃金規定等共通化コース」は、事業主が非正規雇用労働者等に対して、正規雇用労働者と共通の職務等に応じた賃金規定等を新たに作成し、適用した場合に支給されます。
支給額は、中小企業の場合は60万円、大企業は45万円が支給されます。
賞与・退職金制度導入コース
キャリアアップ助成金「賞与・退職金制度導入コース」は、就業規則などに基づいて非正規雇用労働者に賞与・退職金制度を新たに設ける場合に支給される助成金です。
賞与又は退職金制度のどちらかを新たに導入した場合、中小企業は40万円、大企業は30万円が支給されます。
賞与と退職金制度のどちらも導入した場合、中小企業は56.8万円、大企業は42.6万円が支給されます。
社会保険適用時処遇改善コース
キャリアアップ助成金の「社会保険適用時処遇改善コース】は、短時間勤務の労働者等が新たに社会保険の被保険者となった場合に、賃金総額を増加させる措置を講じたり、週所定労働時間を4時間以上延長する等の措置を講じた場合に支給されます。
これは、手取り額の減少を避けるためあえて短時間労働を選択する、いわゆる「年収の壁」の撤廃を目指した制度です。
社会保険適用時処遇改善コースは、事業主のとった対応によって、手当等支給メニューと労働時間延長メニュー、または2つの併用メニューの3つがあります。
手当等支給メニュー
社会保険を適用させるため「社会保険適用促進手当」の支給等を行い労働者の収入を増加させた場合に支給されます。
要件 | |||
1年目 | 賃金の15%以上を労働者に追加支給したこと | 6か月ごとに10万円×2回 | 6か月ごとに7.5万円×2回 |
2年目 | 賃金の15%以上を労働者に対して追加支給したことに加え、3年目以降に下記の取組みが行われること | 6か月ごとに10万円×2回 | 6か月ごとに7.5万円×2回 |
3年目 | 賃金の18%以上を増額させたこと | 6か月で10万円 | 6か月で7.5万円 |
労働時間延長メニュー
所定労働時間を延長することで社会保険を適用させた場合に、事業主に対して助成を行うものです。
所定労働時間の延長 | 賃金の増額 | ||
4時間以上 | |||
3~4時間 | 5%以上 | 6か月で30万円 | 6か月で22.5万円 |
2~3時間 | 10%以上 | ||
1~2時間 | 15%以上 |
併用メニュー
併用メニューは、1年目は手当等支給メニュー、2年目は労働時間延長メニューが適用されます。
キャリアアップ助成金の申請方法
キャリアアップ助成金の申請方法は、キャリアアップ計画の作成やキャリアアップ管理者の配置など、その他の助成金とは異なる点があります。
事前に申請方法をよく確認し、計画的に行う必要があります。
各コースごとに多少の違いはありますが、キャリアアップ助成金の基本的な申請方法は下記の通りです。
- キャリアアップ管理者を配置して、労働組合に意見聴取をした上で「キャリアアップ計画書」を作成する
- 作成したキャリアアップ計画書を管轄のハローワークに提出して認定を受ける
- 各コースの支給要件にもとづいて正社員化や賃金の改定等の取り組みを実施する
- 取り組み開始後、対象となる労働者を6か月以上継続雇用し賃金を支払う
- 賃金支払いが完了した翌日から2ヵ月以内に支給申請を行う
- 審査に通過後、助成金が支給される
キャリアアップ助成金申請時の注意点
キャリアアップ助成金は、申請手続きに誤りや不備があると支給されません。最近では不正受給が増加しており、審査も非常に厳しくなっています。以下のポイントに注意して、キャリアアップ助成金を申請する際に備えましょう。
取り組み開始前に必要な手続きがあります
正社員化や処遇改善などの取り組みを実施する前に、「キャリアアップ管理者の配置」や「キャリアアップ計画書」の作成といった手続きが必要です。これらの手続きが完了する前に正社員化などを行っても、助成金の対象にはなりませんのでご注意ください。
就業規則などへの明記が必要
非正規雇用労働者の正社員化や処遇改善を行うだけでは助成金は支給されません。それぞれの取り組み内容を就業規則や労働協約に明記し、それに基づいて実施する必要があります。就業規則の改定には時間がかかる場合もあるため、計画的に準備を進めましょう。
支給までには時間がかかる
キャリアアップ助成金の申請には「キャリアアップ管理者の配置」や「キャリアアップ計画書」の作成・提出等を済ませたうえで、正社員化や処遇改善に取り組む必要があります。この取り組みは最低でも6か月間継続しなければならず、申請後の審査にも時間がかかります。取り組みを始めてから助成金が支給されるまでには1年程度を見込んでおくことが重要です。
あとから不備の修正ができない
キャリアアップ助成金の申請は、正社員化や処遇改善を行い、6か月以上の賃金を支払った後に行います。そのため、例えば申請時に賃金増加の割合を間違えたことに気づいたとしても、遡って修正することはできません。受給を希望する場合は、事前に要件や申請手続きをしっかり確認し、慎重に進める必要があります。
以上の注意点を踏まえ、キャリアアップ助成金申請には正確な情報と丁寧な手続きを心掛けましょう。
キャリアアップ助成金を不正受給するとどうなる?
近年、キャリアアップ助成金の不正受給が増加していますが、不正受給が判明した場合は厳しい制裁が待っています。ここでは、不正受給の影響について説明します。
まず、不正受給が発覚した場合、支給された助成金は全額返還しなければなりません。さらに、助成金が支給された翌日から返還日までの期間に対し、年3%の延滞金と返還額の20%に相当する違約金も合わせて支払う必要があります。
加えて、不正受給が発覚すると、以後5年間は他の助成金も申請できなくなります。これらのペナルティは非常に大きなものとなるため、虚偽の申請は絶対に避けるべきです。
助成金の適正な活用のために、正しい情報を基に誠実な申請手続きを行いましょう。
まとめ
キャリアアップ助成金は、非正規雇用労働者の労働意欲を向上させ、キャリアアップを促進するために厚生労働省から事業主へ支給されます。この助成金を有効に活用することで、非正規雇用労働者の意欲やエンゲージメントが向上し、企業や事業主にも多くのメリットが期待できます。
助成金にはさまざまなコースが用意されているため、自社のニーズに合った最適なコースを選ぶことが重要です。しかし、申請にあたっては過去の修正ができないなどの注意点もあるため、計画的かつ慎重に取り組みを進める必要があります。
キャリアアップ助成金を活用する際は、事前に要件や手続きを十分に確認し、適切な方法で利用しましょう。