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年収106万円の壁撤廃|年収156万円未満は企業の保険料負担増の特例へ議論
2024年12月10日、厚生労働省は第23回社会保障審議会年金部会において、被用者保険の適用拡大に関する新たな資料を公表しました。この資料では、これまで「年収106万円の壁」として就業調整の要因となってきた基準を撤廃する方向性が示されています。(厚生労働省HP:https://www.mhlw.go.jp/content/12401000/001348971.pdf)
また、年収106万円の壁の撤廃と併せて、年収156万円未満(標準報酬月額12.6万円以下)の従業員に対して、企業が社会保険料(厚生年金保険料)の負担割合を増やすことができる特例の検討が進められています。この制度の変更は、パートタイム労働者などの短時間労働者だけでなく、それを雇用する企業の経営にも大きな影響を及ぼす可能性があります。
年収106万円の壁撤廃など社会保険の適用拡大へ議論が進む
現在、勤務時間・勤務日数がフルタイム勤務者の4分の3未満で、以下の要件を全て満たす労働者については、短時間労働者として社会保険(厚生年金・健康保険)への加入義務が発生します。
- 週の所定労働時間が20時間以上であること
- 月額賃金8.8万円以上であること
- 継続して2か月を超える雇用の見込みがある
- 学生でないこと
- 従業員50人を超える企業に所属していること
そのうち、月額賃金8.8万円以上という賃金要件(年収106万円の壁)については、就業調整の基準として意識されていることや、最低賃金引上げに伴い労働時間要件を満たせば本要件を満たす地域や事業所が増加していることから、撤廃する方向で議論が進んでいます。
また、50人以上という企業規模要件については、労働者の勤め先や働き方、企業の雇い方に中立的な制度を構築するという観点から、撤廃することが検討されています。
年収106万円の壁とは
「年収106万円の壁」とは、日本におけるパートやアルバイト労働者について、社会保険料の加入義務が発生する年収の基準のことをいいます。月額賃金8.8万円(年収106万円)という基準を満たすと、労働者自身に被用者保険の加入義務、及び保険料の負担が発生し、賃金の手取り額が減ってしまうため、就業時間を調整するというケースが多くあります。
この収入水準を意識している可能性のある第3号被保険者は、企業規模100人超で約50万人と見込まれ、2024年10月の50人超への拡大で新たに約15万人が加わり、合計で約65万人と推計されています
年収156万円未満に対する企業の保険料負担の特例
被用者保険の保険料は原則として労使折半です。ただし、健康保険については、健康保険組合において事業主と被保険者が合意の上、健康保険料の負担割合を被保険者の利益になるように変更することが特例として認められています。
一方、厚生年金保険においては、政府が保険者となっているため、健康保険のような保険料負担割合の特例に関する規定はありませんでした。
今回の議論では、被用者保険の適用に伴う保険料負担の発生・手取り収入の減少を回避するための就業調整に対応するため、健康保険組合の特例を参考に、被用者保険において、従業員と事業主との合意に基づき、事業主負担の割合を増加させることを認める特例を設けることが検討されています。
この特例は例外的な位置付けであり、社会経済の変化によって「壁」の認識が変わる可能性があることから、被用者保険の適用拡大の施行状況を考慮した時限措置となります。特例の対象となる標準報酬月額は12.6万円以下(年収にして約156万円未満)とすることが提案されています。
まとめ
被用者保険の適用拡大と「年収の壁」への対応は、就業調整の抑制と労働者の保護の両立を目指す重要な制度改革です。賃金要件の撤廃と企業規模要件の見直しに加え、新たな保険料負担の特例制度の導入により、より柔軟な働き方を支援する制度として整備されることが期待されます。
ただし、企業への影響や実務面での課題についても十分な配慮が必要とされています。特に中小企業への配慮として、事務負担の増加や経営への影響等に留意しつつ、必要な支援策を講じることで、円滑な適用を進められる環境整備を行うことが重要視されています