従業員が育児休業を取得した場合、育児休業給付金が支給されます。その計算において重要な「賃金支払基礎日数」という用語をご存じでしょうか?
この賃金支払基礎日数は、給付金額を算定する際に欠かせない重要な要素です。しかし、特に「賃金支払基礎日数が11日未満」の月がある場合の計算は、人事担当者にとって複雑な問題となることがあります。
こうしたケースに対応するには、法的知識と実務経験が求められ、ミスが発生すると従業員からの信頼を損ねるリスクがあります。
本記事では、「賃金支払基礎日数が11日未満」の場合における育児休業給付金の計算方法について、人事担当者がすぐに活用できるよう、わかりやすく解説します。
育児休業給付金の基本概要
育児休業給付金は、雇用保険の被保険者が育児休業を取得した場合に、一定の条件を満たすことで支給される給付金です。この制度は、育児と仕事の両立を支援し、育児休業中の収入減少による従業員の経済的負担を軽減するために設けられています。
育児休業給付金の対象者と支給条件
育児休業給付金を受給するには、以下の条件を満たす必要があります。
- 雇用保険に加入していること
- 1歳未満の子どもを養育するために育児休業を取得していること(一定条件下では2歳まで延長可能)
- 育児休業期間中に事業主から賃金が支払われていない、または支給されている賃金が通常賃金の80%未満であること
- 就業している日数が各支給単位期間(1カ月ごとの期間)に10日以下、または就業した時間数が80時間以下であること
- 育児休業開始前の2年間に賃金支払基礎日数が11日以上ある月が12カ月以上、または就業した時間数が80時間以上の月が12カ月以上あること
賃金支払基礎日数とは?
育児休業給付金の計算において重要な役割を果たすのが賃金支払基礎日数です。この賃金支払基礎日数は、給与計算や社会保険料の算定基準としても用いられ、従業員の実際の就業実績や支払対象日数を反映します。
賃金支払基礎日数は、育児休業給付金の申請時に必要となる『雇用保険被保険者休業開始時賃金月額証明書』に記載します。この証明書は、正確な旧金額の算定に欠かせない重要な書類です。
参照:ハローワーク横浜HP 『雇用保険被保険者休業開始時賃金月額証明書』(見本)
参照:ハローワーク横浜HP 『雇用保険被保険者休業開始時賃金月額証明書』(記載例)
賃金支払基礎日数の定義
育児休業給付金との関係性
育児休業給付金の支給額を算出する際には、育児休業開始前の6カ月間の賃金支払基礎日数が基準となります。この期間の基礎日数が正確でない場合、支給額が適切に計算されないリスクがあります。
特に、賃金支払基礎日数が「11日未満」の月が含まれる場合、通常の計算式ではなく特別な方法が適用されるため、注意が必要です。
育児休業給付金の支給額
育児休業給付金の支給額は、以下の式で計算されます。
【育児休業開始から180日目まで】支給額=休業開始時賃金日額×支給日数× 67%
【育児休業開始から181日目以降】支給額=休業開始時賃金日額×支給日数× 50%
「休業開始時賃金日額」は、原則として育児休業開始前6ヶ月間の賃金を180で割った金額です。
賃金支払基礎日数11日未満の月の計算方法
育児休業給付金の計算において、賃金支払基礎日数が11日未満となる月が含まれる場合、通常の計算方法とは異なる調整が必要です。これは、短時間勤務やパートタイム労働など、勤務日数が少ない従業員の収入実態に合わせた補正を行うためです。
育児休業給付金における賃金日額の計算手順
育児休業給付金の休業開始時賃金日額は、育児休業開始前6か月間の賃金支払基礎日数に基づいて計算されます。ただし、基礎日数が11日未満の月については特例計算が適用され、以下の手順で調整されます。
調整が必要なケースの具体例
育児休業開始前の6カ月間において、上記のような賃金支払基礎日数と賃金額がある場合、以下の計算方法が適用されます。
- 賃金支払基礎日数が11日以上 の月→通常計算を適用します。
- 賃金支払基礎日数が11日未満かつ就業時間が80時間以上の月→1カ月分換算として特例計算を適用します。
- 賃金支払基礎日数が11日未満かつ就業時間が80時間未満の月→計算対象外(除外)となります。この場合、前の月に遡って賃金支払基礎日数が11日以上の対象月を選択し、賃金支払基礎日数が11日以上ない月を除いた月6カ月で休業開始時賃金日額を算出します。
まとめ
育児休業開始時賃金日額の算定は、企業の人事担当者にとって、正確性が求められる重要な業務です。そして、賃金支払基礎日数が11日未満の月の存在は、育児休業給付金の計算を複雑にします。今回は、通常計算や特例計算の基準、および除外月の扱いについて詳しく解説しましたが、実務上での注意点として以下のポイントを押さえておくことが大切です。
- 基礎日数と就業時間の確認は正確に
賃金支払基礎日数と就業時間を正確に把握することが、適切な計算の第一歩です。特に、特例計算が必要な月や除外される月がある場合は、データの見直しや確認を徹底しましょう。 - 記録の管理と透明性
給与計算や勤怠管理システムのデータを活用し、必要な情報を整理することで、計算ミスを防ぐだけでなく、万が一の調査や確認が必要になった場合にも迅速に対応できます。また、従業員から問い合わせがあった際にも、記録を基に説明することができます。 - 法改正や最新情報のチェック
育児休業制度や計算ルールは、法改正により変更されることがあります。常に最新の情報を確認し、制度変更に適切に対応することが重要です。 - 専門家への相談を活用
計算に不安がある場合や、複数の特例が絡む場合などは、社会保険労務士などの専門家に相談することも選択肢です。正確な算定を行うだけでなく、手続き全体の効率化やリスク軽減につながります。
人事担当者として、複雑な計算や制度対応に追われることなく、従業員が安心して育児休業を取得できる環境を整えることは、会社全体の信頼性向上にも寄与します。ぜひ今回の記事を参考に、実務に役立ててください。