執行役員が労基法上の管理監督者に該当すると判断された事例

執行役員が労基法上の管理監督者に該当すると判断された事例

企業の管理職の中でも「執行役員」が労働基準法上の「管理監督者」に該当するかどうかは、実務でもしばしば論点となる重要なテーマです。

今回は、静岡地方裁判所が令和6年10月31日に下した判決を通じて、執行役員の「管理監督者性」が具体的にどう判断されたのかを紹介します。

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目次

管理監督者該当性の判断ポイント

本件は、品質保証部門の執行役員として勤務していた従業員が、自身の労働時間に対する未払い割増賃金等を請求した事例です。今回はこの裁判のいくつかの争点の中から、管理監督者該当性に絞って紹介をします。

本事例において、裁判所は労働者を労働基準法上の「管理監督者」に該当すると判断し、請求を棄却しました。裁判所は、大きく以下の3つの観点から、この労働者を「管理監督者」に該当すると判断しました。

職務内容・権限・責任

労働者は、品質保証部門の執行役員であり、品質保証室長や部下の管理者よりも上位の立場にありました。また、医薬品製造の品質管理を統括する「正医薬品製造管理者」の地位も有し、品質保証部門においては、全体の統括的な立場にあったと評価されました。

勤務実態

労働者は、会社から労働時間を指示されたり、早朝出勤をやめるよう指示されたことはなく、また、遅刻、早退等をsた場合でも減給されることはなく、欠勤等による人事評価上の不利益もありませんでした。

始業時間前の早朝出勤も業務上の必要性ではなく、個人のライフスタイルに基づくものであるとされ、労働者は自分の労働時間について広い裁量を有していたと判断されています。

処遇(給与等)

労働者は基本給30万円に加え、職能給、資格手当、役職手当、諸手当など、月額合計58万7000円の給与を得ており、この報酬額は、被告の従業員のうち非管理監督者の報酬と比較して著しく高額であり、執行役員としての処遇にふさわしいものであったとされました。

裁判所の結論

以上の事実から裁判所は、原告の労働者は職務内容等、勤務実態、給与のいずれの面からしても、経営者と一体的な立場にあるものとして、労基法上の「管理監督者」に該当し、労働時間等に関する規定を除外されると判断しました。

管理監督者とは

労働基準法第41条第2号に規定される「管理監督者」とは、労働条件の決定や労務管理において、経営者と一体となって企業運営に関与する立場にある者を指します。管理監督者については、労働基準法が定める労働時間、休憩、休日に関する規定の適用が除外されます。

その理由としては、こうした立場の者については、労働時間制度の枠にとらわれず活動することが求められる重要な職務と責任があり、また実際の働き方自体が労働時間規制にはなじまないという事情があります。つまり、管理監督者は一般の労働者とは異なる性質の業務を担っていることから、その特殊な地位に鑑みて、時間管理に関する法的保護を適用しないという扱いがされています。

実務上の注意点

今回の判決から読み取れる実務上の重要なポイントは、労働基準法上の「管理監督者」に該当するかどうかは、単なる役職名や肩書きではなく、その職務の内容や責任の程度、企業経営への関与状況など、実態に即して総合的に判断されるという点です。

つまり、「執行役員」や「部長」といった肩書きがあったとしても、それだけで管理監督者と自動的にみなされるわけではありません。実際の職務において、どの程度の裁量を持っているのか、労働時間に対する自由度はどれほどか、また、その処遇が管理的地位にふさわしい水準にあるかといった点が問われます。

まとめ

管理職や役職者であっても、その職務の内容や勤務実態次第では、労働基準法における「労働者」としての保護が認められる場合があります。逆に、本件のように職務の実質が「経営者と一体」と評価される場合には、労働時間や休日の規定から除外されることになります。

企業の人事担当者や経営者としては、「役職=管理監督者」と形式的に判断するのではなく、その役職者が実際にどのような責任と権限を持ち、どのような労働条件で勤務しているのかについて、適切に判断しながら対応していくことが重要です。

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