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人材戦略を支える福利厚生⑦「『今どき』の永年勤続表彰制度とは?」
「人事プロフェッショナルの福利厚生ガイド」の第7回です。
福利厚生を、人材戦略を支える施策と位置づけ、経営の視点から福利厚生を見直し活用しようという連載です。
私は、福利厚生専門誌「旬刊福利厚生」を発行する出版社、
株式会社労務研究所の代表取締役、可児俊信です。
私がお相手をつとめますサトです。
よろしくお願いいたします。
最近、人事部さんから永年勤続表彰制度についての問い合わせが増えています。
今日はその最新の動向をまとめたいとおもいます。
永年勤続表彰制度とは?
永年勤続表彰は、勤続25年などの所定の勤続年数まで勤めた社員を、会社が表彰する制度です。長期休暇を与えたり、旅行券を配る会社が多いです。
本来の目的は長期勤続をした社員の慰労です。そして長期勤続を促すインセンティブです。しかも、会社が支給した旅行券等が非課税となるなど税制上も優遇されています。
しかし、永年勤続表彰制度を取り巻く環境の変化で、従来の永年勤続表彰制度が見直しの対象となっています。
どんな環境変化ですか?
まずは定年や雇用が60歳から65歳に延長されて、勤続期間が長期化しています。また65歳以降も本人が希望すれば雇用するという会社も増えています。となると、勤続25年だけでなく、勤続30年とか35年とかも表彰する必要はないのかという問題意識が生まれます。
それと同時に勤続20年、25年とかは慰労する年齢ではなく、勤続の中間地点という位置づけになり、慰労から「これからも頑張ってください」という性格に変わってきたということです。
さらには雇用の流動化で、中途採用者が増加しています。30歳代、40歳代で入社すると、永年勤続表彰の勤続年数を迎える前に定年となってしまい、「自分たちには関係ない制度」として、疎外感を生みかねません。だから、永年勤続表彰をさらに強化するという方向性と、見直すべきという方向性の相矛盾する動きが同時にあります。
そもそも永年勤続表彰制度は、20世紀に生まれた制度ですよね?
そうです。ですので、中途採用とか定年延長は考慮されていません。
ただし、見直そうとしても障害があります。
障害の一つが、永年勤続表彰で税制上、非課税となっている給付が時代に合わなくなっていることです。下記が、永年勤続表彰からの給付が非課税となる要件です。
非課税となる給付が、旅行(旅行券)、観劇、記念品に限定されています。完全に慰労を前提にしています。これからも頑張ってくださいという目的に見合った給付にすると、給付が福利厚生としての非課税にならず、給与として課税されてしまい、社員に不利になってしまいます。
もう一つの障害が、社員が永年勤続表彰を楽しみにしており、ある意味で期待権または既得権となっており、見直ししにくいことです。来年勤続25年を迎える社員に対して「来年から勤続30年での表彰となります」となったら、不満が爆発します。または来年夫婦で旅行しようと楽しみにしていたら、旅行券支給が打ち切られたら奥さんが会社を嫌いになりかねません。
見直すべき環境なのに、見直すのが難しいですね。
相談件数が増えているのも納得です。
永年勤続表彰制度の見直し
そんな中でも、見直しした会社もあります。
その事例をご紹介しましょう。
まずは、表彰する勤続年数を20年、25年だけでなく、30年、35年を増やした事例です。業種はスーパーマーケットです。今までの勤続年数に対する給付は残しています。それは既得権・期待権があるからです。この会社では、コロナで永年勤続旅行に行けなかった社員がいたのが、制度見直しの直接のきっかけでした。議論の中で、さらに長期勤続を促したいというのが理由です。
他の事例はありますか?
給付を旅行券ではなく、自己啓発助成金や、人間ドック無料受診に切り替えた会社もあります。これは、永年勤続表彰は全勤続の節目に当たる時期ととらえて、これからも長く働いてもらうために能力を開発したり、会社が提供するリスキリングを受けてもらう、または人間ドックを受けて健康状態をチェックしてもらうという機会にした事例です。
しかし、給付を旅行(旅行券)、観劇、記念品以外とすると税務上永年勤続表彰とはみなされず、課税されるという問題が発生します。
今回の事例では、社員本人の人間ドック受診を会社が負担しても、ある程度の健診内容なら非課税という税制がありますし、自己啓発も仕事との関連性が強ければ非課税になりますので、給付によっては結果的に非課税で済んだということになります。
既得権・期待権があるので難しいですが、
永年勤続表彰を廃止した例はありますか?
下記が、廃止に向けて私がご提案した方法です。
既得権・期待権をいかにして満足させるかというのが課題です。
この事例は現行規程では勤続25年で10万円の旅行券が給付されます。1年1年勤続して25年で10万円分の権利を得るとみなすことができます。ある年で永年勤続表彰を廃止します。その社員はその時点で勤続20年だったとします。勤続25年で10万円なら、20年では8万円分の既得権が発生しているとみなすことができます。
その社員には、永年勤続表彰廃止時点で、カフェテリアプランの付与ポイントに8万ポイントを加算して、既得権を守りました。勤続5年なら2万ポイント(10万円×5/25年)加算します。
カフェテリアプランを実施していない会社ではどうすればよいでしょう?
制度廃止時点での既得権の金額を、その社員が退職する際に退職金に加算するという方法が考えられます。管理は面倒ですが、費用発生が後送りされるというメリットもあります。
他に事例としては、表彰対象の勤続年数を10年とか、短くした会社もあります。これは長期勤続というより、定着を促す手段として永年勤続表彰を転用した事例です。
各社の事例に応じて、いろいろな見直し策が考えられます。
私にぜひご相談ください。
「2022年版 共済会・会社の給付・貸付と共済会の福祉事業」株式会社労務研究所発行(2023年5月)に、各社の永年勤続表彰制度の事例が数多く収録されています。
筆者が代表を務める株式会社労務研究所では、福利厚生環境の変化、従業員の多様化の中で、今後の共済会の在り方を考えようとの目的で、共済会事業交流会を創設し、運営しています。
<共済事業交流会の全体の流れ>
- 参加共済会は会場に集まっていただきます。リモート参加も可能です。
- 持ち回りで各共済会による事業内容の報告をいただきます。
皆様、普段は聞けない他社の共済事業についての報告をメモを取りながら真剣に聞いていらっしゃいます。 - 報告に対する質疑応答に移ります。
途切れることなく質疑応答がなされ、自共済会の状況と照らし合わせながら、時間ギリギリまで質疑応答を行われます。 - 懇親会を毎回開催します。熱心に情報交換をされています。
ご参加要項 |
開催頻度:年6回開催 |
年会費:66,000円 |
持ち回りで自共済会の事業内容の報告をお願いします。 |
<お申込方法などのお問合せ>
株式会社労務研究所 可児俊信:t.kani@rouken.com
株式会社労務研究所 代表取締役
~福利厚生専門誌「旬刊福利厚生」を発行する出版社
千葉商科大学会計大学院会計ファイナンス研究科 教授
可児 俊信 氏
公式HP:https://rouken.com
ご相談・お問合せはこちらから
1996年より福利厚生・企業年金の啓発・普及・調査および企業・官公庁の福利厚生のコンサルティングにかかわる。年間延べ700団体を訪問し、現状把握と実例収集に努め、福利厚生と企業年金の見直し提案を行う。著書、寄稿、講演多数。
◎略歴
1983年 東京大学卒業
1983年 明治生命保険相互会社(現明治安田生命保険)
1988年 エクイタブル生命(米国ニューヨーク州)
1991年 明治生命フィナンシュアランス研究所(現明治安田生活福祉研究所)
2005年 千葉商科大学会計大学院会計ファイナンス研究科教授 現在に至る
2006年 ㈱ベネフィット・ワン ヒューマン・キャピタル研究所所長 現在に至る
2018年 ㈱労務研究所 代表取締役 現在に至る
◎著書
「新しい!日本の福利厚生」労務研究所(2019年)、「実践!福利厚生改革」日本法令(2018年)、「確定拠出年金の活用と企業年金制度の見直し」日本法令(2016年)、「共済会の実践的グランドデザイン」労務研究所(2016年)、「実学としてのパーソナルファイナンス」(共著)中央経済社(2013年)、「福利厚生アウトソーシングの理論と活用」労務研究所(2011年)、「保険進化と保険事業」(共著)慶應義塾大学出版会(2006年)、「あなたのマネープランニング」(共著)ダイヤモンド社(1994年)、「賢い女はこう生きる」(共著)ダイヤモンド社(1993年)、「元気の出る生活設計」(共著)ダイヤモンド社(1991年)